墨絵師・クリスティーン・フリント・サト
李庚氏の下で過去の一流絵師たちの作品を模写しその筆法を体得する方法(こ れは歴史に名を残した全ての絵師がおこなったこと)を学ばれた。そしてそれ をさらに昇華させ現在も留まることなく常に新しい表現に挑戦し、独自の表現 を展開し続けている。その姿は江戸時代やそれ以前の絵師たちもきっと彼女の ようであったのだろうと、私は一人想像を膨らませている。
彼女が墨絵に興味を持ったきっかけとなった日本を代表する室町時代の絵師・ 雪舟から現代に至るまで、墨絵(水墨画)は脈々と描かれ続けてきた。その起 源は中国にあり、中国から日本へやってきた。昔の絵は古臭いように見えるか もしれないが、当時は最先端の現代美術作品であったことを忘れてはいけな い。
では現代の墨絵とはどんなものか?と考えた時、 例えば、電気のない江戸時代の作品は障子に反射させ室内に取り込んだ日の光 や蝋燭の柔らかい灯りの明るさで、床の間という独特のスペースに飾られるこ とを想定し、そこで見栄えがする様に描かれた。なのでそれをそのまま真似す ると現代にはそぐわない作品が出来上がるし、現代には現代の住環境、展示環 境にあった工夫が必要だと思う。しかし、その一方で作品の圧倒的なエネル ギーで、時代や環境に関係なく光り輝く作品もある。さて、クリスティーンは 現代の墨絵師としてどんな作品を生み出してくれるのだろうか。
西洋文化との交流をするようになるまでの日本では、絵といえば墨絵であり他 の選択肢はなかった。しかし今は違う。様々な画材がある中で、あえて墨と筆 という最もシンプル(無論墨一つで様々な色や表現ができるのだが)なものを 選んで追求することでどんなものが生まれるのか楽しみで仕方がない。
100年後に私の店がまだあるならば、古美術となったクリスティーンの作品を “令和時代を代表する墨絵師の一人”として私の子孫が店に飾り、その魅力をお
客様に「この方はうちのご先祖と友人だったんですよ」と小話を交えて紹介し てくれるようになっていたらどんなに嬉しいことだろうかと思うし、そうなっ てもらいたいと願っている。
書画屋 山添 (株)代表取締役 山添亮